「キーマンズネットで『クラウドサービスを入れてもExcelは残る』というオロの調査記事を読んだ。事務系会社員の56.6%が職場で二重入力を経験しているとの結果に驚いた。当社のような中小企業の経営者として、Excelをどう扱う業務基盤を作ればよいのか整理できていない」――2026年5月、株式会社オロが全国の事務系会社員433人を対象に実施した調査で、職場の二重入力の実態が明らかになりました。背景に見えてきたのは「クラウドサービスとExcelの分断」と「業務間の分断」という構造的問題です。
この記事では、株式会社イーネットマーキュリー代表で20年以上ITインフラに携わってきた立場から、ITに詳しくない経営者の方に向けて、「Excelは残る」56.6%の現実を経営フレームに翻訳し、決裁者がExcel併存型の業務基盤をどう設計すべきかを整理します。
オロ調査「56.6%が二重入力経験」の経営者向け要約
結論からお伝えします。株式会社オロが2026年5月に発表した調査では、事務系会社員の56.6%が職場で二重入力を経験しており、クラウドサービスを導入してもExcelや別システムへの再入力がなくならない実態が示されました。経営者にとって重要なのは、二重入力の割合ではなく「Excelは業務基盤の中で残り続ける」という前提への切り替えです。
3つの事実だけ押さえれば十分
オロ調査をめぐる経営判断に必要な事実は次の3点に絞られます。
・事実1: 全国の事務系会社員433人を対象とした調査で、56.6%が二重入力を経験していることが2026年5月に明らかになった
・事実2: 二重入力の背景に「システム・業務の分断」がある
・事実3: クラウドサービス(特にクラウドERP)を導入してもExcelが業務基盤から消えない構造的理由がある
「Excelをなくす」を目標にした業務改革は、現場で機能しないことが2026年の調査で公式に裏付けられました。中小企業の経営者として、Excel併存を前提にした業務基盤を再設計する経営判断が求められる局面に入りました。
「Excelをなくす方針」が失敗する3つの構造
多くの中小企業で「Excelを排除して業務をクラウドサービスに集約する」改革が試みられますが、現場で定着しない理由は3点の構造にあります。
第一に、Excelは「自由度の高い計算・分析ツール」として現場の判断業務に深く根付いており、クラウドサービスの定型処理だけでは代替できません。第二に、クラウドサービスの導入は業務全体の一部しかカバーできず、カバー外の業務がExcelに残ります。第三に、Excelに慣れた現場の熟練者は、クラウドサービスへの完全移行を心理的に拒否する傾向があり、結果としてExcelとクラウドサービスの並行運用が発生します。
これらの構造を直視すると、「Excelをなくす」のではなく「Excelとクラウドサービスを並行運用しつつ、二重入力を最小化する」業務基盤設計が、現実的な経営判断になります。
決裁者が選ぶExcel併存型業務基盤の3観点
「Excelは残る」を前提に、Excel併存型業務基盤を設計するときの観点を3つに整理します。技術選択ではなく経営フレームとして整理します。
観点1:Excelの「役割」を業務基盤の中で明示できているか
Excel併存型業務基盤を設計する第一歩は、Excelに残す業務とクラウドサービスに移す業務を「役割で線引きする」ことです。多くの企業では、この線引きが曖昧なまま並行運用が続き、結果として二重入力が発生しています。
役割分担の現実的な線引きは次のとおりです。Excelに残すべき業務は、「自由度の高い計算・分析」「個別顧客向けの試算・見積」「定型化されていない一時的な業務」「経営層が直接触れる集計・KPI管理」です。逆にクラウドサービスに移すべき業務は、「マスタデータ管理(顧客・商品・取引先)」「定型処理(受発注・経費精算・勤怠管理)」「複数部署をまたぐワークフロー」「履歴管理が必要な業務」です。
経営者として決めるべきは、「自社の業務を役割で線引きする」マスタープランを経営層が承認することです。情シスや業務担当が起案し、経営層が線引きを確認する流れが現実解です。
観点2:Excelとクラウドサービスの「接続点」を設計できているか
役割分担を決めても、Excelとクラウドサービスの接続点が設計されていなければ二重入力は減りません。接続点の設計が、Excel併存型業務基盤の中核になります。
接続点の選択肢は3つあります。第一に、クラウドサービスからExcelへのデータ出力を自動化する方向(マスタデータをクラウドサービスから自動取得、Excelでの計算・分析後にクラウドサービスに戻す)。第二に、Excelからクラウドサービスへのデータ入力を自動化する方向(Excelで作成したデータをスクリプトやAPIでクラウドサービスに反映)。第三に、Excelとクラウドサービスの間にAI支援を入れる方向(生成AIで両者の差分を埋め、業務者が二重入力する必要をなくす)。
経営者として決めるべきは、「接続点の自動化に投資するか、人手で運用するか」の方針です。中小企業の規模感では、接続点を完全自動化する必要はなく、業務量の多い接続点だけ自動化する部分採用が現実的です。
観点3:機密情報を扱うExcelファイルが「外に出ない」運用ができているか
Excel併存型業務基盤の盲点は、機密情報を含むExcelファイルが社外に出てしまうリスクです。クラウドサービスは権限管理が整っている一方、Excelファイルはメール添付・USB持ち出し・個人クラウド経由で漏洩する経路が残ります。
2026年以降、AI活用が進むと「Excelファイルを汎用クラウドAIに入力して分析させる」業務が増える可能性があります。機密情報を含むExcelファイルを汎用クラウドAIに入力するのは情報漏洩リスクが高く、社内専用AI(自社サーバー内に閉じて動作するAI)で処理する設計が必要です。
経営者として決めるべきは、「Excelファイルの社外持ち出し・外部AI入力に関する社内ルール」と「機密情報を含むExcelをAI処理する基盤の選定」の2点です。
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Excel併存型業務基盤の設計フレーム
3つの観点が固まったら、次は具体的な設計フレームです。中小企業の規模感で現実的に進められる、Excel併存型業務基盤の設計フレームを整理します。
業務基盤設計の5ステップ
従業員10~300名規模の中小企業を想定した、Excel併存型業務基盤の5ステップは以下のとおりです。
・ステップ1: 現状の業務を棚卸し、Excelで処理されている業務とクラウドサービスで処理されている業務を分類
・ステップ2: 二重入力が発生している接続点を特定、業務量と頻度を計測
・ステップ3: Excelに残す業務・クラウドサービスに移す業務の役割線引きを経営層で承認
・ステップ4: 接続点の自動化計画を策定、業務量の多い接続点から順次自動化
・ステップ5: 機密情報を含むExcelファイルのAI処理基盤を選定、社内専用AIへの移行を検討
Excel併存型業務基盤のパターン比較
| 項目 | 現状放置型(並行運用のみ) | 接続点自動化型 | AI支援型(社内専用AI併用) |
|---|---|---|---|
| 初期投資 | 0円 | 50~300万円 | 200~600万円 |
| 月額運用費 | 現状維持 | 5~20万円 | 15~40万円 |
| 二重入力の削減効果 | 0% | 50~70% | 70~90% |
| 機密情報の安全性 | 持ち出しリスク残存 | 権限管理で軽減 | 社内専用AIで強化 |
| 現場の負荷 | 変わらず(不満蓄積) | 軽減 | 大幅軽減 |
| 導入期間 | 0カ月 | 3~6カ月 | 6~12カ月 |
| 3年累計の効果 | マイナス(業務効率停滞) | プラス(投資回収可) | プラス(投資回収可+安全性) |
正解は1つではありませんが、機密情報を扱う業務が業務全体の20%以上を占める中小企業にとっては、AI支援型(接続点自動化+社内専用AI)が、業務効率と情報セキュリティのバランスとして妥当な選択になります。
決裁者が業務基盤提案を受けたときの5項目チェック
Excel併存型業務基盤の提案を受けたとき、経営者が必ず確認すべき5項目は次のとおりです。
・確認1: 自社の二重入力箇所が業務量と頻度の数字で示されているか
・確認2: Excelとクラウドサービスの役割線引きが業務単位で明確になっているか
・確認3: 接続点の自動化が「全自動」ではなく「業務量の多い箇所から段階的」で設計されているか
・確認4: 機密情報を含むExcelファイルのAI処理基盤が明示されているか
・確認5: 3年累計の効果(二重入力削減時間、人件費削減、情報漏洩リスク低減)が試算されているか
Excel併存時代の社内ルール設計
業務基盤の設計だけでなく、Excelファイルの取り扱いに関する社内ルールも経営判断の重要要素です。Excel併存型業務基盤を機能させる社内ルールを整理します。
Excelファイル取扱の5ルール
中小企業の規模感で、Excelファイルの取り扱いに関する社内ルールとして整備すべき5項目は次のとおりです。
・ルール1: 機密情報を含むExcelファイルの定義(顧客個人情報、契約情報、財務情報、人事情報、設計情報を含むExcelを対象)
・ルール2: 機密情報Excelの保管場所(社内サーバーまたは権限管理されたクラウドストレージに限定)
・ルール3: 機密情報ExcelのAI処理基盤(社内専用AIで処理、汎用クラウドAIへの入力は禁止)
・ルール4: Excelファイルのメール添付・USB持ち出し・個人クラウド経由の制限
・ルール5: Excelファイルのバージョン管理と廃棄ルール(古いバージョンの保管期限、廃棄時の手順)
社内ルール運用の3段階
社内ルールを実効性のある形で運用するための3段階は次のとおりです。
第一段階は、社内ルール文書(A4で2~3枚)を策定し、全社員に周知することです。第二段階は、ルール違反時の対応手順を明確化し、責任者を指名することです。第三段階は、半期に一度のルール見直しを経営会議の議題に組み込み、運用の実態に合わせて改訂していくことです。
社内ルールが文書化されていない企業では、ルール策定そのものが第一の経営判断になります。ルールの整備は社内専用AI導入よりも先に進めるべき優先順位の高い経営判断です。
よくある質問
Q1. Excelを完全に廃止して業務をクラウドサービスに集約できますか?
多くの中小企業では現実的ではありません。オロの調査が示すように、クラウドサービス導入後もExcelが業務基盤に残る構造があります。完全廃止を目指すよりも、「Excelの役割を限定し、二重入力を最小化する」設計の方が、現場で機能する業務基盤になります。
Q2. 二重入力の削減は経営の優先課題になりますか?
業務量に依存します。1日あたり1人30分の二重入力が発生している企業(年間1人あたり約130時間、人件費換算で40~60万円)が10人いれば、年間400~600万円の損失です。中小企業でもこの規模の損失は経営判断の対象になります。二重入力の業務量を計測することが、優先課題か否かを判断する第一歩です。
Q3. クラウドサービスのアップグレードでExcel依存は減りますか?
限定的です。クラウドサービスの機能拡張で減るのは「定型処理のExcel化」だけで、「自由度の高い分析・試算のExcel化」は減りません。Excelは「現場の判断業務を支える計算ツール」として残るため、業務基盤の設計はExcel併存を前提に進めるのが現実的です。
Q4. 接続点の自動化はノーコードツールで実現できますか?
業務量と複雑さによります。シンプルな接続(クラウドサービス→Excel→クラウドサービス)はノーコードツール(Power Automate、Zapier等)で実現できます。複雑な接続や大量データの処理は、専用のスクリプト・APIプログラムが必要になります。中小企業の場合、ノーコードツールで対応可能な範囲を先に自動化し、対応不能な範囲は外部パートナーに委託する組み合わせが妥当です。
Q5. ExcelファイルをAIに入力して分析させる業務は安全ですか?
機密情報を含まないExcelであれば、汎用クラウドAIに入力しても問題ありません。ただし、顧客個人情報・契約情報・財務情報・人事情報・設計情報を含むExcelは、汎用クラウドAIへの入力は避けるべきです。これらの機密情報を含むExcelは、社内専用AIで処理する設計が現実解です。
Q6. 中小企業でExcel自動化を進める人材がいません
外部パートナーに委託する方向と、社内人材を育成する方向の2つがあります。中小企業の現実解は、初期の自動化を外部パートナーに委託し、運用フェーズを社内人材に引き継ぐ二段階の進め方です。Excelマクロ・VBAの社内人材育成は、書籍と実務トレーニングで6カ月程度の期間を見込めば、業務効率化を主導できる人材が育ちます。
Excel併存型業務基盤チェックリスト(10項目)
「Excelは残る」前提のExcel併存型業務基盤の経営判断を、経営会議の議題として使えるチェックリストにまとめました。半期に一度の見直しをお勧めします。
・チェック1: 自社の業務でExcelとクラウドサービスのどちらで処理されているかが分類できているか
・チェック2: 二重入力が発生している接続点が特定され、業務量が計測されているか
・チェック3: Excelに残す業務とクラウドサービスに移す業務の役割線引きが経営層で承認されているか
・チェック4: 接続点の自動化計画が業務量の多い箇所から段階的に設計されているか
・チェック5: 機密情報を含むExcelファイルの定義と保管場所が社内ルールで明確になっているか
・チェック6: 機密情報Excelの汎用クラウドAI入力禁止が社内ルールに明記されているか
・チェック7: 社内専用AIを含む機密情報処理基盤の検討が経営計画に位置づけられているか
・チェック8: Excelファイルのメール添付・持ち出し制限が社内ルールに明記されているか
・チェック9: 二重入力削減の効果計測指標(時間短縮、人件費削減)が経営会議の議題になっているか
・チェック10: Excel自動化・接続点自動化を担う社内人材・外部パートナーが特定されているか
10項目のうち、3つ以上「いいえ」がある場合、いますぐ着手すべき余地があります。逆に7つ以上「はい」が付いていれば、Excel併存時代でも当面の経営判断として大きな手戻りはありません。
本記事のまとめ
オロ調査の「事務系会社員の56.6%が二重入力を経験」という結果は、Excelが業務基盤から消えない構造を統計的に裏付けるものです。中小企業の経営者として、「Excelをなくす」のではなく「Excel併存型業務基盤を再設計する」方向に経営判断を切り替える局面に入りました。
決裁者がいま固めるべきは、(1) Excelの役割を業務基盤の中で明示する線引き、(2) Excelとクラウドサービスの接続点設計、(3) 機密情報を含むExcelファイルの外に出さない運用、の3観点です。AI支援型(接続点自動化+社内専用AI併用)の業務基盤が、二重入力削減と情報セキュリティの両立を実現する現実解になります。
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