IT担当者を雇うか外注するか:年収・稼働・責任範囲で徹底比較する中小企業の判断ガイド

「IT担当者、そろそろ採用した方がいいのだろうか。でも給与を払い続けるのは不安だし、外注で乗り切れるなら外注にしたい」──中小企業の経営者、特に製造業の2代目社長から繰り返し聞かれる悩みです。在庫管理・生産ラインの稼働状況・取引先との受発注データが次々とシステム化される中、IT業務の比重は年々重くなっています。

この記事では、IT担当者を正社員として雇用する場合と、IT顧問・保守サポート会社などへの外注で賄う場合を「年収(コスト)」「稼働(どれだけ動いてくれるか)」「責任範囲(何を任せられるか)」の3軸で徹底的に比較します。製造業の決裁者が判断に使える具体的な数字と選択基準を示します。

目次

IT担当者の「雇用」と「外注」、そもそも何が違うのか

まず定義を整理します。

本記事でいう「雇用」は、情報システム担当・社内SEとして正社員または契約社員を採用することです。専任か兼任かを問わず、雇用契約を結んで自社の社員として迎え入れる形態です。一方「外注」は、IT顧問・IT保守サポート会社・フリーランスのITエンジニアなど、社外の専門家や会社にIT業務を委ねる形態を指します。

雇用と外注の最も根本的な違いは「指揮命令権」にあります。正社員であれば、業務時間中に随時指示を出して動かせます。「今日の午後、サーバーの設定を確認してほしい」「明日、取引先に見せるためのデータ抽出をお願いしたい」といった依頼を、追加費用なしで当日行えます。外注先には「契約範囲に含まれるかどうか」という制約が常につきまとい、範囲外の依頼には追加費用が発生するか、そもそも対応を断られることもあります。

もう一つの根本的な違いは「自社知識の蓄積先」です。社員として長く働く人材は、自社のシステム構成・使っているクラウドサービスのアカウント情報・過去のトラブル履歴・ベンダーとの取引経緯を体に染み込ませて業務します。この知識は社内に蓄積され、経営者が入れ替わっても次の担当者に引き継げます。外注の場合、担当者が変わるたびに「うちのシステムをゼロから説明し直す」コストが経営者・管理部門に発生します。この引き継ぎコストは帳票に現れにくいですが、長期的には無視できない損失です。

さらに「固定費か変動費か」という違いもあります。正社員を雇用すると毎月の人件費が固定費として確定します。外注は「使った分だけ払う」変動費的な性格を持ち、業務量に応じた調整がしやすいです。景気変動の影響を受けやすい中小製造業では、この柔軟性が重要になることがあります。

以上を踏まえたうえで、具体的なコスト・稼働・責任範囲の各軸を見ていきます。

費用で比較する:正社員IT担当者の年収と外注コストの実態

まず雇用のコスト実態です。

IT担当者(情報システム担当・社内SE)を中途採用する場合、2026年時点の市場では年収350万円~550万円が相場です。経験3~5年の即戦力人材であれば年収450万円前後が一つの目安ですが、これはあくまで額面の年収です。会社が実際に負担するトータルコストはこれを大幅に上回ります。

社会保険料(健康保険・厚生年金)の会社負担分は給与の約14~15%です。年収450万円の社員では、毎月の社会保険料会社負担が約5万3,000円、年間では約63万円が上乗せされます。そのうえ採用コスト(求人媒体掲載費・人材紹介会社への紹介手数料)が50万円~150万円、入社後のIT資格取得支援・研修費用が数十万円かかるケースもあります。

「年収450万円のIT担当者を1名採用する」コストは、初年度トータルで550万円~700万円に達することがあります。翌年以降は採用コストが消えますが、社保負担込みで年間520万円前後の固定費が継続します。

一方、外注の費用感を見てみましょう。

IT顧問(月4回訪問・メール対応無制限)の相場は月額5万円~15万円、年間60万円~180万円です。IT保守サポート会社との月額契約(ヘルプデスク対応・定期点検込み)は月額3万円~8万円が多く、年間36万円~96万円の範囲です。スポットのシステム改修・開発依頼は内容によりますが、業務管理ツール1本の改修で30万円~100万円程度が目安です。

外注を組み合わせてフル活用しても、年間200万円~300万円で収まるケースが多く、正社員1名の雇用コストと比べれば「同等の機能を半分以下のコストで賄える」場合もあります。ただし、この計算は「対応できる業務量に上限がある」という前提に立っています。コストだけで外注を選ぶと、緊急対応の遅さや自社システムを深く知る人材がいないという問題が後から浮上します。コスト比較は判断の出発点であり、稼働・責任範囲と合わせて総合的に見る必要があります。

IT担当者を雇うか外注するか:年収・稼働・責任範囲で徹底比較 — 関連イメージ1

稼働時間と責任範囲で比較する

コストの次は「どれだけ動いてくれるか(稼働)」と「何に責任を持ってもらえるか(責任範囲)」を比較します。

正社員IT担当者の稼働は原則として所定労働時間(週40時間)です。緊急時には残業・休日出勤も依頼できます。製造業では特に、金曜夜に受発注システムが止まった場合や、月曜朝のライン開始前に生産管理ツールが起動しない場合など、「今すぐ動いてほしい」という事態が定期的に発生します。社員であれば電話一本で対応を依頼でき、現場の状況を直接把握しながら動いてもらえます。

責任範囲については、社員は雇用契約の範囲で広く義務を負います。PCのセットアップと管理、社内ネットワーク設定、クラウドサービスのアカウント管理、外部ベンダーとの窓口対応、社員向けIT研修の実施まで、多岐にわたる業務を担当することが期待されます。業務量が増えれば残業やヘルプを依頼できる関係性も築きやすいです。

外注先(IT顧問・保守会社)の稼働は「契約で定めた時間・作業範囲」に限定されます。月4回の訪問契約であれば、それ以外の時間に発生した問題は「次回訪問時に対応」か「追加費用でのスポット対応」です。「それは契約範囲外です」という返答が来ることも珍しくありません。

責任範囲で特に問題になりやすいのは「インシデント発生時の対応」です。ランサムウェア被害・情報漏洩・基幹システムの停止が発生したとき、外注先の保守会社は「自社の契約範囲内で支援する」立場であり、最終的な意思決定と責任は経営者側にあります。社内にITの判断軸を持つ人間がいない状態では、外注先に「どうしたらいいですか」と聞くしかなく、対応が後手に回ります。

稼働・責任範囲の観点から整理すると、IT業務の「緊急性が高い」「深い判断が必要」「自社固有の知識が要求される」局面ほど、社員採用が有利です。逆に「月1回の定期点検で十分」「年に数回のスポット改修対応」「社員研修の補助」であれば外注で賄えます。

比較表で一目確認:雇用 vs 外注を9項目で整理

以下に正社員IT担当者(雇用)とIT顧問・保守会社(外注)を9項目で比較します。

比較項目 正社員IT担当者(雇用) 外注(IT顧問・保守会社)
月額コスト目安 37万円~47万円(社保込み) 3万円~25万円(契約内容次第)
初期費用 採用費50万円~150万円 ほぼゼロ(契約準備費のみ)
緊急時の対応速度 即時(社内にいる) 数時間~翌営業日(契約次第)
対応できる業務範囲 広い(指示次第で柔軟に対応) 契約範囲内に限定(追加は別途費用)
自社知識の蓄積先 社内に蓄積される 外注先に蓄積(担当交代でリセット)
インシデント対応力 現場に即座に入れる 支援は可能だが最終判断は自社側
責任の所在 会社(使用者責任)と本人 外注先(契約範囲内)+自社経営者
採用・解約のリスク 離職・採用難のリスクが高い 解約・切り替えが比較的容易
業務量増減への柔軟性 低(増員には再採用が必要) 高(契約内容を随時調整できる)

この表で最も注目すべき対立軸は「コスト効率」と「対応力の深さ・速さ」のトレードオフです。コストを抑えたい場合は外注、深くすぐ動かしたい場合は雇用という方向性が読み取れます。

製造業の経営者が特に注意すべきは「緊急時の対応速度」と「インシデント対応力」の列です。ライン停止、システムエラーによる出荷遅延、取引先からの急ぎの受発注データ確認依頼──これらが月に複数回発生する環境では、外注だけで賄うには構造的な限界があります。「緊急時にすぐ動ける人間が社内にいる」という安心感のコストとして正社員採用を捉えることも、経営判断の一つの軸です。

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自社に合うのはどちらか:業務量・業種・採用市場から判断する

雇用と外注のどちらを選ぶかは、「自社のIT業務が月何時間発生しているか」から逆算するのが最も実践的です。

月に発生するIT業務量(PC管理・社員からの問い合わせ対応・システム設定・ベンダー折衝の合計)を過去3カ月分で計測してみてください。

月20時間以下であれば、外注(月額5万円~10万円の保守契約)で十分に対応できます。PC台数が10台以下、使っているクラウドサービスが3本以内、月に1~2回のトラブル対応程度の規模感が目安です。

月40時間を超えるようになると、外注費が月額20万円以上になることが多く、正社員1名の採用と費用感が逆転し始めます。このタイミングが採用を本格的に検討するシグナルです。

製造業2代目の経営者に特有のケースとして「工場ラインの老朽化に伴い、在庫・生産管理システムを全面刷新したい」という状況があります。このプロジェクト自体(設計・構築・テスト:6カ月~2年)は外注SIerへ委ねながら、システム稼働後の日常管理・社内トラブル対応を担う社員を1名採用するという「ハイブリッド」が現実的な選択です。プロジェクト中にSIerと並走して社員に技術移転させることで、稼働後は外注依存度を下げられます。

もう一つ見落とされがちな観点は「採用できるかどうか」という現実です。2026年時点、中小製造業のIT担当者採用は難航しています。年収450万円の求人票を出しても1カ月で応募ゼロという事例も珍しくありません。採用が困難であれば、まず外注で当座を凌ぎながら採用活動を並行して進めるという段階的アプローチが現実的です。「外注はあくまで過渡期の措置」と経営計画上で位置づけておくことが重要です。

さらに「採用した社員が辞めた後のリスク」も考慮が必要です。IT担当が1名しかいない状態でその人材が退職すると、社内にIT知識が一切残らないブラックボックス状態に陥ります。採用後も外注サポートとの並走期間を半年程度設け、知識とドキュメントが社内に定着してから外注比率を下げるという段階的な移行計画が有効です。

よくある質問

「外注のIT顧問で十分と思うが、いつ正社員採用に切り替えるべき目安はあるか?」

月40時間以上のIT業務が継続して発生している場合が一つの目安です。また「外注先に聞かないと判断できない案件が週1回以上ある」「緊急対応で外注先の返答を待っている間に損失が発生したことがある」という状況が重なれば、採用を具体的に動かすタイミングです。

「IT担当を雇わなくても、管理部長が兼任すれば外注だけで回るのではないか?」

小規模(社員10人以下・PC台数10台以下)であれば成り立つケースもあります。ただし、管理部長が月10時間以上をIT対応に費やしている場合、本来の経理・人事・総務業務が圧迫されています。IT以外の本業に与える機会損失を含めたコスト計算をすると、外注費+管理部長の時間コストが正社員1名の採用コストを上回ることがあります。

「外注先のIT顧問を後から正社員として迎え入れることは可能か?」

可能ですが、業務委託(外注)から雇用への切り替えには法的な手続きが必要です。それまでの外注関係が「実態として雇用と同じ」と判断されると、偽装請負として問題になる場合があります。切り替えを検討する際は、労働契約の締結・社会保険加入義務の発生など、正規の採用プロセスを経ることが求められます。

「外注から正社員採用へ切り替えるとき、引き継ぎはどうすればよいか?」

外注終了前に以下のドキュメントを必ず整備してください。社内システム構成図、クラウドサービスのアカウント一覧(担当者メールアドレス・プラン内容)、ベンダー連絡先一覧(保守会社・SIer・回線事業者)、過去のトラブル事例と対応記録、月次定期作業チェックリスト。これらが整備されていない状態で外注を終了すると、採用した社員が「何もわからない」状態から始めることになり、引き継ぎコストが採用コストを上回ります。

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雇用・外注どちらを選ぶにしても確認するチェックリスト

最終判断の前に以下の項目を確認してください。

月間IT業務時間の計測: 過去3カ月間の社内IT業務(PC対応・ベンダー折衝・システム管理・社員サポート)の合計時間を記録し、月平均を把握しているか
緊急対応の頻度と損失額の確認: 「すぐに対応が必要なITトラブル」が月何回発生し、1回あたりの対応遅延で生じた損失(出荷遅延・作業中断)がいくらかを過去6カ月で記録しているか
外注候補先の見積もり取得: IT顧問・保守サポート会社から、自社の業務量に見合った月額見積もりを最低3社から取得し比較しているか
採用市場の現実確認: 自社所在地・業種・年収条件で求人媒体(求人ボックス・Indeed等)に掲載した場合の応募見込みを確認し、採用難易度を把握しているか
引き継ぎドキュメントの有無: 現在のIT業務(外注先の担当者業務を含む)の引き継ぎドキュメント(システム構成図・アカウント一覧・ベンダー連絡先)が存在するか
IT人件費・外注費の予算枠確認: 来期の経営計画にIT人件費または外注費として確保できる予算枠がいくらかを経営計画に明記しているか
段階的移行計画の有無: 外注から採用への移行計画、または採用後の外注縮小スケジュールを文書化しているか

まとめ:IT担当者の雇用と外注は「どっちが得か」ではなく「いま何が必要か」で選ぶ

雇用と外注の選択は「コストが安い方」という単軸で決めると後悔が生じます。月20時間以下の業務量なら外注で十分ですが、月40時間を超え、緊急対応が頻発し、ライン停止が経営に直結する製造業であれば、外注に依存するリスクは相応に高くなります。

一方で「採用が難しい」という現実も直視する必要があります。「外注で当座を凌ぎながら採用活動を並行する」という段階的アプローチが、多くの中小製造業にとって現実的な解です。重要なのは「過渡期の外注」なのか「長期的な外注依存」なのかを経営計画の中で明確にすることです。

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