IT顧問契約前に中小企業が実施する社内IT現状調査の進め方と調査結果の整理方法

「IT顧問を雇いたいけれど、何を任せればよいのか分からない」——中小企業の経営者から最もよく聞く声の一つです。
IT顧問との契約を最大限に活用するためには、契約前に自社のIT現状をきちんと把握しておくことが不可欠です。現状が見えていない状態で顧問を迎えると、最初の1~2か月を調査だけに費やすことになり、その期間の顧問料は実質「調査費用」に変わります。

この記事では、IT顧問との契約前に中小企業が自力で実施できる「社内IT現状調査」の具体的な進め方と、調査結果を顧問に渡しやすい形に整理する方法を解説します。調査シート・比較表・チェックリスト・FAQを含め、すぐ実務で使える情報に絞って紹介します。

目次

社内IT現状調査とは何か?IT顧問契約前に必要な理由

社内IT現状調査とは、自社が現在利用しているIT資産(ハードウェア・ソフトウェア・ネットワーク・データ管理方法)と業務との連動状況を体系的に記録・整理する作業です。いわば「自社ITの棚卸し」であり、外部の監査機関が行うフォーマルな検査とは異なり、経営者や管理部門が主体となって実施する自己点検です。

IT顧問との契約前にこの調査を終えておくべき理由は大きく3点あります。

第一に、顧問費用の無駄を省くためです。IT顧問の月次報酬は中小企業向けでも3万円から20万円以上の幅があります(2026年10月時点)。現状把握から始めてもらうと、最初の1~2か月は「調査月」となり、この期間は具体的な課題解決に充てられません。事前に自社で調査を済ませておけば、初回ミーティングから「この課題を解決する」という議論に入れます。調査2か月分の費用を節約できれば、それだけで自力調査にかかった社内工数分の元が取れます。

第二に、顧問候補の比較・選定精度が上がるためです。「自社のIT環境はこうで、この部分で詰まっています」と具体的に説明できれば、顧問候補側からも的確な提案が返ってきます。現状が分からないまま相談すると「まず調査します」と言う顧問しか選べなくなり、比較検討が難しくなります。

第三に、社内関係者の意識合わせができるためです。現状調査を行う過程で、現場担当者がどのツールをどう使っているかが可視化されます。経営者が知らなかった「影のIT(公式承認なしに使われているクラウドサービス等)」も浮かび上がり、顧問との契約前に社内の整理が進みます。

調査にかかる時間は、従業員10名以下の企業なら担当者1名が3~5日、30名前後なら1~2週間が目安です。専門知識は不要で、本記事のステップを順にこなすだけで調査シートが完成します。

IT現状調査を外注せず自力で進めるべき理由

現状調査をIT顧問やコンサルティング会社に外注するケースもありますが、「最初の現状調査」だけは自力で行うことを強く推奨します。

理由1:調査プロセス自体が学習になる
棚卸しを行う過程で、「このソフトウェアはいつ導入されたのか」「ライセンスは何本持っているのか」を確認する作業は、経営陣・管理部門のITリテラシー向上に直結します。外注してしまうと、調査報告書が届いても内容を読み解けない事態が起きます。顧問と継続的に議論するためには、自社ITを「自分の言葉で語れる」状態が理想的です。

理由2:コストが大幅に下がる
IT診断・初期調査を外部に依頼すると、中小企業向けパッケージでも15万円から30万円のコストがかかります(2026年10月時点)。本記事の手順を使えば、社内人件費のみで完結します。節約したコストを顧問との月次活動に充てたほうが費用対効果は高くなります。

理由3:自社の「言葉」でまとめられる
外部が作る調査報告書は客観的ですが、現場の実感から離れることがあります。自力でまとめた調査資料には、現場担当者の言葉と体感が入っているため、顧問との議論に使いやすくなります。「このシステムが月末に毎回重くなる」「この工程だけ手作業が残っている」といった定性情報は、自社だからこそ書き込める情報です。

ただし、ネットワーク機器の詳細設定やサーバーの脆弱性診断など、専門知識が必要な領域は「調査の外縁」として記録にとどめ、顧問に確認してもらう形で構いません。自力調査のスコープは「何が存在するか」「どう使われているか」の把握であり、設定値の妥当性評価は顧問の仕事です。

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社内IT現状調査の進め方:5ステップ

1. 調査範囲と担当者を確定する

まず「何を調べるか」「誰が調べるか」を明確にします。調査範囲は以下の4カテゴリを基本とします。

・端末・機器: PC・プリンター・スキャナー・スマートフォン・タブレット・ルーター・スイッチ
・ソフトウェア・サービス: OS・業務ソフト・クラウドサービス(メール・ストレージ・会計・勤怠等)
・ネットワーク: 回線種別(光・SIM等)・プロバイダー・VPN有無・Wi-Fi台数
・データ管理: 重要データの保存場所・バックアップの有無・共有フォルダの構成

担当者は、各部門に1名「ITヒアリング担当」を指名します。専門知識は不要で、「使っているソフトウェアを答えられる人」であれば十分です。調査票を事前配布し、1週間で回収するスケジュールが一般的です。

2. ハードウェア・ソフトウェアの棚卸しをする

機器の棚卸しは、実際に目視で確認しながら台帳を作ります。Excelまたはスプレッドシートに以下の列を設けます。

・機器名・型番: 製品名と型番(シールや裏面で確認)
・購入年・リース終了年: 保証切れ・リース終了が近いものを把握
・現在の利用状況: 稼働中・予備・未使用
・担当部門・使用者: 誰が使っているかを記録
・故障歴・懸念事項: 動作が遅い・電源が落ちる等の現場の声を記入

ソフトウェアについては、インストールされているソフトの一覧をWindowsなら「設定 → アプリ → インストールされているアプリ」から確認できます。クラウドサービスは月次のクレジットカード明細や請求書から洗い出すと漏れが少なくなります。

特に見落としやすいのが「個人カードで支払っているクラウドサービス」です。会計・勤怠・タスク管理ツールを個人カードで契約している担当者がいると、退職時に会社のデータが消えるリスクがあります。この段階で可視化・法人カードへの切り替えを進めておくことを推奨します。

3. 業務フローとIT依存度をマッピングする

主要業務がどのITツールに依存しているかを整理します。A4用紙1枚で構いません。「受注→製造→出荷→請求→入金」等の業務の流れを横軸に描き、各工程で使っているシステム・ツールを書き込みます。

この作業で見えてくるのが「IT依存度の濃淡」です。ある工程はクラウドサービス2つに完全依存しているが、別の工程はExcelファイルの手作業が残っている——といった実態が一目で分かります。Before/Afterのイメージで言えば、Before(調査前)は「なんとなく動いているIT環境」、After(調査後)は「どの業務がどのツールに依存しているかが可視化された状態」です。

IT顧問に渡す資料としては「最もITが追いついていない工程」を1~3か所ピックアップしておくと、初回ミーティングで的確な提案を引き出せます。

4. セキュリティリスクを自己点検する

専門的な脆弱性診断は顧問に委ねますが、経営者・管理部門が確認できる基本的なセキュリティ状況は事前に点検しておきます。確認項目は以下のとおりです。

・パスワード管理: 全員が個別パスワードを持っているか。共有アカウントはないか
・OS・ソフトウェアの更新状況: Windows Updateが自動更新になっているか。古いOSが残っていないか
・バックアップ: 重要データが外部(別のストレージやクラウド)にバックアップされているか。最後にバックアップを確認・復元テストしたのはいつか
・退職者アカウント: 過去の退職者のメールアカウントやシステムアクセス権が残っていないか
・Wi-Fiのゲスト分離: 来客が使うWi-Fiと社内業務用のWi-Fiが分かれているか

これらを「できている/できていない/不明」の3択で記録するだけで、顧問との初回面談で優先順位を決める際の有効な資料になります。「不明」の数が多いほど、顧問に最初に取り組んでもらうべき課題の候補です。

5. 調査結果を整理・文書化する

ここまでの調査結果を1つのドキュメントにまとめます。A4換算で3~5枚程度が読みやすい分量です。構成は以下を推奨します。

・サマリー(1ページ): 会社規模・従業員数・現在のIT環境の概要
・資産台帳(1~2ページ): 機器・ソフトウェア・クラウドサービスの一覧
・業務×IT依存度マップ(1ページ): 主要業務フローとツールの対応図
・セキュリティ自己点検表(1ページ): 4ステップで確認した結果
・課題・要望(箇条書き): 経営者・現場担当者が感じているITの不満・要望

この5点セットを顧問候補との初回面談前に送付すると、面談の質が大幅に上がります。顧問側も「どの課題から着手するか」を事前に考えた上で来るため、初回から具体的なアドバイスが得られます。

比較表:現状調査あり vs 調査なしでIT顧問契約はどう変わるか

事前調査を行った場合と行わなかった場合で、IT顧問契約の中身がどう変わるかを整理します。

比較項目 事前調査あり 事前調査なし
初回ミーティング 課題の優先順位づけから開始できる 現状把握・ヒアリングに1か月以上かかる
初月の顧問料の使われ方 具体的な課題解決・改善提案に充当 情報収集・調査費に実質消費
顧問候補の比較精度 具体的な課題を伝えられ、提案力を比べられる 「まず調査します」と言う顧問しか選べない
顧問との信頼構築 自社ITを語れる経営者として対等に議論できる 丸投げになり顧問依存が強くなる
社内の副次効果 影のIT・未承認ツールが可視化される 課題が表面化しないまま契約継続
導入コスト 社内工数(3~10日)のみ 顧問料換算で2~4か月分が調査に消える

表の通り、事前調査にかかる工数は最大でも10日程度ですが、調査なしで契約を始めた場合の損失は顧問料換算で数十万円規模になることが分かります。特に初月の顧問料の使われ方は、契約継続の意思決定に直接影響するため、最初の印象を良くする意味でも事前調査は有効です。

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よくある質問(FAQ)

Q1. IT知識がなくても自力で調査できますか?
できます。本記事のステップ1~5は、ITの専門知識を前提にしていません。「今使っているソフトを書き出す」「機器の型番をシールで確認する」「クレジットカード明細でクラウドサービスを洗い出す」といった作業がメインです。専門的な設定値の確認や脆弱性の評価は顧問に委ねる前提で、まず「何があるか」を把握することを目標にしてください。

Q2. 調査に何人・何日かかりますか?
従業員10名以下の企業なら、専任1名で3~5日が目安です。30名前後になると各部門へのヒアリングが必要になるため1~2週間かかります。事前に調査票(Excel)を各部門に配布して1週間で回収し、集計・整理に2日という流れが効率的です。無理に急いで精度を落とすよりも、「不明」のまま記録して顧問に委ねる判断が大切です。

Q3. 調査資料はどこまで作り込む必要がありますか?
完璧な資料は不要です。顧問候補への初回送付資料としては「サマリー1ページ+機器・ソフト一覧1ページ+セキュリティ点検表1ページ」の計3ページで十分です。「不明」が多く残っていても問題ありません。むしろ「不明が多い=顧問に整理してもらう余地が大きい」と示すことになり、顧問側が貢献しやすい状態を作れます。

Q4. 調査結果をIT顧問に渡すタイミングはいつですか?
初回面談の2~3日前に送付するのが理想的です。顧問候補が事前に目を通せる時間を確保することで、面談当日に「この点を詳しく教えてください」という具体的な議論が始まります。面談当日に初めて見せるのは避けてください。情報量が多いと当日の消化が難しくなります。

Q5. 調査したら社内の問題がたくさん出てきて怖いのですが?
問題が「見えた」ことは進歩です。見えない問題は対処できませんが、見えた問題は優先順位をつけて対処できます。調査で出てきた課題リストは、そのままIT顧問との「最初の1年間でやること」のリストになります。問題が多くても悲観せず、「これでIT顧問への依頼事項が明確になった」と捉えることが重要です。

IT現状調査の実施チェックリスト

以下のチェックリストを印刷・コピーして、調査の進捗管理に使ってください。

【調査準備】
・担当者(ITヒアリング担当)を各部門に1名指名した
・調査票(Excel)を作成し、回収期限を設定した
・経営者から「調査への協力」を全社に周知した

【ハードウェア棚卸し】
・全PCの台数・型番・購入年を一覧化した
・プリンター・スキャナー・ルーター等の周辺機器を記録した
・リース契約の機器はリース終了日を確認した
・故障歴・動作に問題のある機器をリストアップした

【ソフトウェア・クラウドサービス棚卸し】
・業務PCにインストールされているソフト一覧を取得した
・法人カード・個人カードで支払っているクラウドサービスを洗い出した
・ライセンス数と実際の使用者数が一致しているか確認した

【ネットワーク・セキュリティ】
・インターネット回線の種別・プロバイダーを確認した
・Wi-Fiの業務用とゲスト用の分離状況を確認した
・全社員が個別のパスワードを持っているか確認した
・退職者のアカウントが残っていないか確認した
・バックアップの有無・最終確認日を記録した

【文書化・提出準備】
・調査結果を3~5枚のドキュメントにまとめた
・「課題・要望リスト」を経営者・現場担当者から収集した
・顧問候補への送付を初回面談の2~3日前に完了した

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まとめ

IT顧問との契約を実りあるものにするためには、契約前の社内IT現状調査が大きな差を生みます。調査によって「顧問費用の無駄が省ける」「顧問候補を正確に比較できる」「社内の問題が可視化される」という3つの効果を得られます。

調査自体は専門知識がなくても実施できます。「何が存在するか」「どう使われているか」の把握を目的に、本記事の5ステップを1~2週間で完了させてください。完璧な調査報告書でなくても、「不明」が残っている状態でも、顧問候補への情報提供として十分な価値があります。

まず動き出すことが重要です。調査シートを1枚作ることから始めると、自社のIT環境が少しずつ見えてきます。その過程で顧問に何を任せるべきかが自然と明確になります。

IT顧問の選定・活用についてご相談があれば、お気軽に株式会社イーネットマーキュリーまでお問い合わせください。現状調査の段階からご支援することも可能です。

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