「毎月のITコスト、ソフトウェアに何円払っているかすぐ答えられますか?」
本業と情シスを兼任している担当者にとって、ライセンスの管理は後回しになりやすい業務です。気づけば退職した社員のアカウントがそのまま残っていたり、誰も使っていないツールに毎月数万円が消えていたりするケースは珍しくありません。
この記事では、情シス兼任担当が自社のソフトウェアライセンスを体系的に棚卸しし、過剰契約を特定して削減するまでの具体的な手順を解説します。管理台帳の作り方から、経営者への削減提案まで一通りカバーしています。
ソフトウェアライセンス棚卸しとは何か
ソフトウェアライセンス棚卸しとは、自社が契約しているすべてのソフトウェアとクラウドサービスを一覧化し、「何を・何本・誰が使っているか」を現状に合わせて確認する作業です。会計でいう棚卸資産の確認と同じ概念で、ITコストの無駄を可視化するための第一歩です。
中小企業でこの作業が後回しになりやすい理由は主に3つあります。
1つ目は、担当者不在の問題です。大企業であれば専任の情シス部門が管理しますが、中小企業では総務や経理が兼任で対応しているケースが大半です。日常業務に追われるなかで、ライセンス管理の優先度は自然と下がります。
2つ目は、部門バラバラ購入の問題です。クラウドサービスが普及したことで、部門単位でクレジットカード払いのサブスクリプション契約を結ぶいわゆる「シャドーIT」が増えています。情シス担当者が把握していないライセンスが社内に存在するケースは、従業員20名以下の企業でも頻繁に起きています。担当者がフリーランスのときに使い始めたツールをそのまま会社の業務に使い続けているケースや、営業が独自に契約したSFA(営業支援ツール)を経営者が知らなかったというケースもあります。
3つ目は、退職者アカウントの放置です。人員の入れ替わりがあるたびにライセンスを見直すべきですが、実際は削除されないまま更新が続くケースが多く、退職者が使っていたシートを新入社員のために追加契約するという二重課金も起きがちです。特に月額制のクラウドサービスは「気づいたら何年も払い続けていた」という事態になりやすい構造があります。
こうした状況の積み重ねにより、国内中小企業では購入済みライセンスのうち約20~35%が実態として未使用または過剰契約になっているという調査結果もあります(ITコスト管理の国際調査データを参考にした参考値。社内環境によって差があります)。棚卸しはコスト削減だけでなく、ソフトウェア監査(ベンダーが使用実態を確認する調査)への備えや、セキュリティ上の不正アクセス防止にもつながります。1人情シスだからこそ、体系的な管理が必要です。
過剰契約が生まれる3つの構造的要因と放置コストの実態
ソフトウェアの過剰契約が積み上がる背景には、個人のミスではなく構造的な要因があります。この章では代表的な3つの要因と、放置した場合に発生するコストを具体的に示します。
1. 組織変更のたびにライセンスが残り続ける
企業が成長したり、組織を再編したりするたびに、部門や役職が変わった担当者のツール利用状況が見直されないまま放置されます。たとえば、40名規模の会社でプロジェクト管理ツールをプロジェクト用に20名分契約し、プロジェクト完了後も解約せずに更新を続けると、月額1名あたり3,000円なら毎月6万円の無駄が発生します。年間72万円です。このようなケースは、プロジェクト型業務を行う建設・広告・IT系の中小企業で特に頻繁に起きています。
2. 部門が個別契約したクラウドサービスの蓄積
営業部門が「CRMを使いたい」、マーケティング部門が「メール配信ツールを契約した」、経理部門が「クラウド会計ツールを追加した」──このように各部門が独自に判断した契約が、情シス担当者の把握外で増え続けます。特にクラウドサービスは無料トライアルから有料に切り替わる際の通知が見落とされやすく、数カ月が経過して初めてクレジットカードの明細で気づくことがあります。3,000円程度の少額サービスほど気づきにくく、5つ積み上がると月1万5,000円、年18万円の見えないコストです。
3. ボリュームライセンスの最低購入数問題
Microsoft 365やAdobeなどのボリュームライセンスでは、まとめて購入すると単価が下がる代わりに、一定数以上の購入が必要です。「10名で使うのに15名分買えば単価が下がる」という計算で多めに契約した結果、実際には余剰ライセンスを5本抱え続けるケースは実際に起きています。また、年次でのライセンス数の見直しを忘れて、退職者分が更新されてしまうケースも同様です。
以上のような要因が重なると、月次で5万円~20万円の不要なコストが発生していることも珍しくありません。年間60万円~240万円規模の削減余地が眠っている可能性があります。情シス兼任担当が1日かけて棚卸しをすることで、このコストを大幅に圧縮できます。

ライセンス棚卸しの5ステップ手順
実際に棚卸しを進めるための具体的な手順を解説します。初めて取り組む場合は、このステップを順番に実施することで、漏れなく作業を進められます。
ステップ1: 支出を網羅的に洗い出す
最初のステップは「お金の流れをたどる」ことです。ソフトウェアの契約を把握するもっとも確実な方法は、支払いの記録をさかのぼることです。記憶や申告ベースのリストアップでは必ず漏れが出るため、お金の動きを起点にします。
確認すべき支払い経路は以下の通りです。
・会社クレジットカードの明細(過去12カ月): 電子明細をCSVでエクスポートし、「サブスク」「更新」「subscription」「monthly」等で検索する。紙明細しかない場合は全件スキャンして手入力する
・経費精算システム: 担当者が個人払いで立て替えているケースがないか確認する。ライセンス費用を「消耗品」「通信費」として計上しているケースは見落としやすい
・銀行口座の引き落とし履歴: 年間払いのライセンスは月次チェックでは見落としやすいため、銀行明細で1年分を確認する
・請求書ファイル(紙・PDF): 保存されている請求書を全件確認し、ソフトウェア・クラウドサービス関連を抽出する
このステップで作成するのは「支出ベースのソフトウェアリスト」です。ExcelまたはGoogleスプレッドシートに次の項目を記録します。
・サービス名: Microsoft 365、Adobe Creative Cloud、Slack、Zoomなど
・契約数(シート数): 何名分か
・月額コスト(税込): 円換算した実費。年払いは12で割って月換算する
・次回更新日: 解約・変更のリミットを把握するために必須
・契約担当者の名前・部門: 誰が申し込んだか、誰の名義か
このリストが棚卸しの土台です。完成後は次のステップに進みます。
ステップ2: 利用実態を確認する
リストが揃ったら、次は「実際に使われているか」を確認します。多くのクラウドサービスには管理者用の利用状況ダッシュボードが用意されており、ログイン履歴やアクティブユーザー数を確認できます。
・Microsoft 365管理センター(admin.microsoft.com): 「レポート」→「使用状況」でユーザーごとのアクティブ状況を30日・90日・180日単位で確認できる
・Slack管理画面: ワークスペースの設定から「メンバー管理」でアクティブメンバーを確認できる
・Google Workspace管理コンソール: 「レポート」→「ユーザー」でアプリごとの利用状況を確認できる
こうしたダッシュボードにアクセスできない場合、または機能が限られている場合は、直接各部門の責任者にヒアリングします。「このツール、チームで実際に使っていますか?月に何回程度?」という質問を部門長ごとにメールで送るだけでも十分です。回答期限を1週間として設定することで、確認作業がスムーズに進みます。
確認した結果を台帳に「利用状況」列として追記します。目安として、過去90日間でログインがないユーザーは「未使用」として分類します。
ステップ3: 過剰・未使用ライセンスを特定する
ステップ2の確認結果をもとに、契約数と実使用者数を比較します。差分が「削減候補」です。
たとえば、次のような状況は削減対象として優先度が高くなります。
・退職者のアカウントが有効なまま: コストが発生し続けるだけでなく、外部からの不正アクセスのリスクにもなる
・90日以上ログインがないユーザー: 役職変更や異動後に不要になったケースが多い
・同種ツールが複数契約されている: ビデオ会議ツールがZoom・Microsoft Teams・Google Meetの3つ並存しているなど
・トライアル期間が過ぎて自動更新されたサービス: 担当者が気づかず有料化しているケース
・最上位プランを契約しているが上位機能を全く使っていない: 下位プランで十分なケースが多い
確認が終わったら、削減候補を「即削除(退職者・長期未使用)」「要確認(利用者に確認が必要)」「統合可能(同種ツールの重複)」の3段階で分類します。この分類がそのまま次のアクション計画になります。
ステップ4: 解約・ダウングレード・統合を実施する
削減候補のリストが確定したら、実際の対応を進めます。注意すべき点は、クラウドサービスの解約タイミングです。年払い契約は途中解約しても返金がない場合がほとんどです。次回更新日の少なくとも1カ月前までに解約手続きを行うよう、更新日をカレンダーアプリ(Googleカレンダー等)に「更新日30日前」の通知として登録しておきます。
対応の優先順位は以下の通りです。
・退職者アカウントの即時無効化: セキュリティ観点でも最優先。利用確認は不要で即日対応する
・90日未ログインアカウントの確認と削除: 当該ユーザーに確認後、不要なら削除する
・重複ツールの統合: 部門長を交えた会議で統合先を決定し、移行期限を設定する
・ボリュームライセンスの調整: 次回更新時に実使用者数に合わせたシート数に変更する
削減が確定したものは台帳に「対応済み」としてマークし、月額削減額を記録します。Before(棚卸し前の総コスト)とAfter(削減後の総コスト)を数字で並べることで、経営者への報告資料として活用できます。たとえば「月額ITコスト: 35万円→22万円(▲13万円 / 年間156万円削減)」のように示すことで、投資対効果が明確になります。
ステップ5: 定期棚卸し体制を整える
1回棚卸しをしても、時間が経てば再び未使用ライセンスが積み上がります。持続的にコストをコントロールするには、棚卸しを定期的に実施する仕組みが必要です。
・月次(月1回・30分): クレジットカード明細と銀行明細を確認し、新たに発生したソフトウェア費用を台帳に追記する
・四半期(3カ月に1回・半日): 人事異動・入退社の情報と照合し、アカウントの追加・削除を行う
・年次(年1回・1日): 全台帳を見直し、次年度の予算計画に削減分を反映する
また、新しいソフトウェアを導入する際には「申請→情シス承認→台帳追記」のフローを社内ルールとして設けることで、シャドーITを予防できます。Googleフォームで申請フォームを作成し、「部門名・サービス名・目的・月額費用・利用人数・代替手段の有無」を記入させるだけで十分です。この仕組みが定着すれば、次回の棚卸し工数も大幅に削減できます。
ライセンス管理方法の比較:規模別の最適解
棚卸し台帳の管理に使うツールはいくつかの選択肢があります。社内規模と管理コストに合わせて選びましょう。
| 管理方法 | 初期費用 | 管理工数 | 自動検知 | 向いている規模 |
|---|---|---|---|---|
| Excelスプレッドシート | 0円 | 高(手動入力) | なし | 従業員~30名 |
| Googleスプレッドシート(共有) | 0円 | 中(複数人で更新可能) | Apps Scriptで部分対応 | 従業員~50名 |
| SaaS型IT資産管理ツール | 月額1万円~5万円 | 低(自動検知あり) | あり | 従業員50名以上 |
| Microsoft 365管理センター | 0円(M365契約内) | 低(既存機能を活用) | M365のみ対応 | M365ユーザー向け |
従業員30名以下の中小企業であれば、まずExcelまたはGoogleスプレッドシートで台帳を作成するのが現実的です。IT資産管理ツールへの投資は、棚卸しで削減した費用がツール月額費用を上回ることが確認できてから検討します。棚卸しで年間60万円削減できた企業が月額2万円のツールを導入するのは合理的ですが、削減見込みが不明な段階でのツール先行投資はコストがかさむだけになります。
なお、SaaS型IT資産管理ツールの価格・機能は各ベンダーが継続的に更新しています(2026年8月時点)。比較検討の際は各ベンダーの最新資料を必ず確認してください。

よくある質問
Q1. 棚卸しにはどのくらいの時間がかかりますか?
A. 初回は規模によって異なりますが、従業員30名以下であれば台帳作成に1~2日(実作業6~10時間)、利用実態の確認に1週間程度を見込んでください。2回目以降は仕組みが整うため、四半期あたり半日程度に短縮できます。最初の1回だけが大変で、その後は維持管理が中心になります。
Q2. 部門が契約したサービスを情シス担当が解約する権限はありますか?
A. 権限はあっても、部門の業務に影響が出る可能性があるため、必ず部門長に確認を取ってから解約します。ただし、退職者アカウントの無効化はセキュリティ理由で優先度が高く、原則として確認前に対応可能です。理想は「全ソフトウェア契約は情シスを通す」という社内ルールを経営者の承認のもとで設け、情シスが一元管理する体制を作ることです。この体制があれば、将来的な重複契約を防止できます。
Q3. 年払いのライセンスを途中解約したら返金されますか?
A. 多くのクラウドサービスは年払い契約の途中解約で返金がありません(Microsoft 365、Slack、Adobe Creative Cloudなど主要サービスはほぼ返金なし)。この場合は解約よりも「アカウントの無効化・一時停止」を先行させ、次回更新日が来る前に契約数を減らす変更手続きを行うのが現実的な対応です。更新日から逆算して30日前にリマインダーを設定しておくことが重要です。
Q4. どのサービスから先に棚卸しを始めると効果的ですか?
A. 月額コストが大きいものから優先します。具体的には月額1万円以上のサービスをリストアップし、その利用実態を最初に確認することで、削減効果が数字で見えやすくなります。Microsoft 365、Adobe Creative Cloud、Salesforce、kintoneなどのビジネス向けプラットフォームは契約金額が大きく、削減効果が高い傾向があります。少額サービスの整理は、大口の見直しが終わってから取り組むと効率的です。
Q5. 棚卸しとセキュリティにはどんな関係がありますか?
A. 退職者のアカウントが有効なままだと、前職員が外部からシステムへアクセスできる状態が続きます。特に管理者権限を持つアカウントが放置されると、社内データへの不正アクセスや情報漏洩のリスクが高まります。棚卸しによるアカウント整理はコスト削減と同時にセキュリティリスクの低減に直結します。情報セキュリティの観点からも、四半期ごとのアカウント棚卸しは推奨されています。
棚卸し開始前チェックリスト
作業に入る前に次の項目を確認しておくと、棚卸しがスムーズに進み、途中で作業が止まるリスクを大きく下げられます。
・経営者から棚卸し実施の承認を得ている: 解約・ダウングレードを進めるための権限確認。「情シス主導でライセンスを整理してよい」という一言の承認を文書またはメールで取っておく
・過去12カ月分の支払い明細が取得済み: クレジットカード明細(CSV)と銀行明細(PDF可)を手元に用意する。電子明細のダウンロード方法は事前に確認する
・台帳フォーマットを準備している: ExcelまたはGoogleスプレッドシートに「サービス名・契約数・月額・次回更新日・利用状況・担当者」の列を用意する
・部門長への説明材料がある: 「コスト削減のためにライセンスの利用実態を確認したい。回答を一週間以内にお願いしたい」という内容のメールを作成しておく
・主要サービスの管理者権限を持っている: Microsoft 365管理センター・Google Workspace管理コンソール・Slackなどの管理画面にログインできることを事前に確認する
・更新日のカレンダー登録方法を決めている: 棚卸し後に解約・変更が必要なサービスの更新日を、Googleカレンダーなどで「30日前通知」として登録する手順を確認する
・棚卸し前の総コストを記録している: 削減後の効果を数字で示すために、棚卸し開始時点の月次ソフトウェアコスト合計額をメモしておく
このチェックリストをすべてクリアした状態で着手すると、最初の棚卸しを確実に完了できます。

本記事のまとめ
ソフトウェアライセンスの棚卸しは、情シス兼任担当が業務の合間に取り組める現実的なコスト削減施策です。初回は10時間前後の作業工数がかかりますが、過去の実例では年間60万円~240万円の削減効果が見込める企業が少なくありません。
重要なのは、棚卸しを「1回で終わらせない」ことです。月次・四半期・年次の定期チェックを業務フローに組み込むことで、無駄なコストが再び積み上がるのを防ぎます。また、新規導入時の申請フローを設けることで、シャドーITの発生を未然に防ぐ効果も得られます。
本記事で解説した5ステップを順番に実行し、まずExcelで台帳を1枚作ることから始めてください。棚卸し完了後に削減できた金額と今後のIT投資に回せる予算が可視化されれば、経営者への報告にも活用できる具体的な資料になります。
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